Neighborhood Asian Languages
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この文は、1996年10月、ある業界の技術委員会総会での私の講演内容を纏めたものである。

アジアの風景-シンガポール・国会-タイ・ピーマイ-中国・桂林-大阪城-台湾・国家戯劇院-韓国・東大門

 1971年から3年間,米国で、1974年に3ヶ月間、ドイツで、住んだことがある。それから1991年までは、ほとんどアメリカ、ヨーロッパを訪問し,それぞれの国々の人々に出会ってきた。そのため、今まで物事の考え方は、どうしても欧米に重心を置いたものであり、日本と欧米との関係に重点を置くものであった。これには、基本的には、明治維新以降,欧米に追いつけ追い越せという日本の経済的、社会的な必要性に基づく学校教育の影響は、見逃せないだろうし、また、戦後,一層その度合いを深めて来ている状況も,大きく影響したと思える。

 しかし、1992年4月,初めて韓国を訪問して以来、中国、香港、台湾、タイ、マレーシア,シンガポール、インドネシア、フィリッピンなど主に東北アジア、東南アジアの国々をたびたび訪問し、それぞれの国の人々と会い、その国々の風土と人情に 触れることが出来た。アジアで、欧米に基づく見方、考え方、つき合い方でいいのかという疑問が出てきた。現在、多くの日本の企業がアジア、特に東北アジア及び東南アジアに進出し、展開している。それぞれの国で,製造に,商売に進出した企業のこれら日本人とも出会うことができた。その時、その言動から、その疑問が一層生じてくる。

 この時,感ずることは、思うことは、世界に於ける日本とは、日本人とは、ということである。
 欧米にスタンスを置いた、また、欧米に追いつけ、追い越せということで、明治以来邁進してきた、日本のスタンスではなく、同じ立場で、アジアの人々と出会い、話し、理解し合うことが必要でないかとの思いが,アジアの国を訪問する度に、生まれて来る。

 その手始めが、英語でもなく、いわんや日本語でもなく、それぞれの国々の言葉・コトバ・ことばを少しでも知り、その現地の国の言葉で話すことであった。

 以下の内容は、その間,独習で学んだそれぞれの国の言葉に対する私の印象であり、場合により、実際には、異なっていることも多々あると想う。当然、言語学的には、全くの素人であり、全くの意味のないものであろう。この辺は、充分考慮いただき、ご容赦いただきたいし、お叱責をお待ちしております。

1.アジアは、主体が曖昧か?

中国・広州-鎮海楼  アジアは、主体である”私”、客体である”あなた”に対して、はっきり述べない,曖昧である。これは、欧米語または欧米文化に対し、よく日本語に対しても言われることでもある。具体的には、以下に示す例文を参照していただきたい。特に、会話の中に於いて、”私”や”あなた”が,欧米の言葉に比べて、欠落しいる。
 この欠落、曖昧さは、少し飛躍するが、やはりキリスト教に根ざす、契約的社会,合理的実際主義的社会,明確にしないと気が済まない社会と,仏教、儒教に根ざす家族主義的血縁及び社会的関係的社会との差ではないかと思える。白と黒との社会と灰色の中に白と黒とが微妙にバランスしている社会。デジタル社会とアナログ社会。
 アジアには、”私”であったり、”あなた”であったりをわざわざ,出すことは、必要のないことであろう。”あうんの呼吸”という言葉がある、まさにアジアは、”あうんの呼吸”に基づいているのではないだろうか。話し合うときには、”私”と”あなた”しかいない時、なぜ,”私”であり、”あなた”をわざわざ,言う必要があるのかということになる。また、家族的,地域的社会に於いて、その秩序の維持のためには、”私”や”あなた”をあえて言わない方がよいのではないだろうか。

 
Japanese(日本語)(私は、)明日、東京へ行きます。
EnglishI will go to New York tomorrow.
Chinese(漢語)()明天到北京去。
Korean(Hangulo) (Nanun) neil Seoule kamnida.
Thais(Phasaa Thai)(Phom) pai Krung Theep phruungnii, Khrap/Kha.
Malaysian(Bahasa Malayu)Besok (saya) pergi ke Kuala Lumpur.
Indonesian(Bahasa Indonesia) Besok (saya) pergi ke Jakarta.


 すべて、私は、明日、東京(又はその国の都市)へ行きます、をそれぞれの国の国語で言い表しものです。ここで、かっこで囲んである”私”は、会話の中で,一般に省略されることが多い。
 しかし、”私”を言わないからと言って,主体が曖昧かということである。それは、前述したように、アジア特有の儒教文化の影響によると想う。謙譲、謙遜、尊敬、丁寧等が人情的に、織りなした言葉である。

 次に示す言葉は、”私”と”あなた”をそれぞれの国の国語で、表したものである。会話のなかで、尊敬、謙譲,丁寧の言葉が微妙に絡み合う。特に韓国語の場合、この傾向が特に強い。韓国語の場合、直接”あなた”を言う言葉がないように思える。普通、当身(tanshin)を”あなた”として当てるが、一般的には違うようだ。また、中国語には、それらの言葉の微妙な表現が少ないように思う。この点、歴史的に、儒教の生まれた、育まれた国として、分からない。中国共産主義によるものなのか、元々なかったのか,どうであろうか。儒教、道教を輸入した韓国、日本で,この区別がハッキリしてきたのは,多くの表現があるのは、何故だろうか。

日本語あなた
EnglishI, meYou, you
漢語 hanyuNi(イ尓), Nin
Hanguloche, cho, na-,(chone, tanshin)
Phasaa Thaiphom, dichan, chankhun
Bahasa MalayusayaTuan. Anda
Bahasa Indonesiasaya,(aku)Saudara(同志), Anda, Bapak(父), Ibu(母)



 漢語の場合、同じ漢字を使いながら、使用する漢字が,日本の第一水準、第二水準の漢字にはしばしばない。あなたを表す漢字がなく、残念ながらピンイン表記で表さざるを得ないのは残念である。"ni"の漢字は、"弥"の弓偏が人偏となったもの(イ尓)。またその尊称"nin"は、"ni(イ尓)"の漢字に”したごころ(心)”を付けたもの。よく使われる漢語の漢字を是非ワープロ漢字に入れてもらいたいと思っているのは、独りだろうか。

 インドネシア語とマレーシア語は、現在ほぼ同様な言葉であるが、元々同じであったわけでわはない。それは、多民族国家としての歴史に深く関わる。20世紀になって、オランダ植民地主義に対しての抵抗運動の中で生まれた連帯意識によって「インドネシア人のアイデンティティー」が育まれたことによる。スマトラ島北端のアチュア人、ジャワ島西部のスンダ人、ジャワ島中・西部のジャワ人、バリ島のバリ人、スラウェシ島北部のマナド人。基本的には、ジャワ語、スンダ語,バリ語といった民族語で、その他その数300とも400とも言われる。オランダ植民地時代に、オランダがマレー半島とスマトラ島で使われていたマレー語(ムラユ語)をオランダ語に次ぐ第二言語として認めたことにより、その後、1945年憲法で、ジャワより多民族の結束を優先し、インドネシア語を国語として正式に定めた。この辺の詳細を知りたい人は、小川忠 「インドネシア-多民族国家の模索-」(岩波新書)を参照下さい。

2.アジアは、尊敬、謙譲、丁寧表現が多い?
富山県・アルプス
日本語:
私、僕、貴方、お前等の人称名詞の変化。 します、存じ上げます、差し上げます等の助詞変化。お、御等。

English:
Sir, Madam, could you, please 等の追加語など。

漢 語:
謙譲表現は、特にないように思えるが、実際はどうでしょうか。

Nin 貴姓?(お名前は、どうおっしゃいますか)
拿菜単(メニューをお願いします)
ni(イ尓) 再説一遍(すみませんが、もう一度お願いします)
一個人/一人(一人/お一人)
請問,可以吸烟ma(すみません、タバコを吸ってもいいですか)

Hangulo:
日本語と同様、丁寧語、尊敬語、謙譲語がハッキリしている。ただ、日本語が、それらが相対的である(相対的敬語)のに対して、韓国語は、状況、立場等によらず、相手が自分とどうであるかという絶対的(絶対的敬語)である。

Na(私:同輩、目下に対し言う),cho(私:目上に謙譲して言う)
maalhada/ maalhamnida/ maalswmhashida/ jotzupta(言う/言います/おっしゃる/申し上げる)
irwm/ soongham(名前/お名前)
mannada/ pweepta(会う/お目にかかる)

 なお、韓国語は、日本語、満州語,モンゴル語等のアルタイ語系に属する。従って、韓国語の文法と日本語,モンゴル語の文法とは同じである。

 参考に、小沢重男「日本語の故郷を探る-モンゴル語圏から-」(講談社現代新書)から、モンゴル語と日本語との事例を津吟味次に示す。その語構造が一致していることがよく分かる。

 Bi  siren derxi  ene nomig ungsimar baina.
 私 机の 上にある この 本を 読みたい です。
Phasaa Thai:
丁寧語もあるが、多くは尊敬、丁寧、謙譲表現は、文末に "Khrap(男性の場合)/ Kha(女性の場合)" を付ける。

kin/ thaan(食う/食べる)
Chuai phuut chaa-chaa nooi, Khrap/Kha.(もう少しゆっくりお願いします)
(Karunaa) Hongnaam yuu thiinai, Khlap?(すみません、トイレはどこですか)

 タイは、ご承知のように、王国であり、どこへ行っても,国王の絵、写真を家、会社で、日本の神棚を祀るように,掲げられているのを見ることができる。王室は、仏教同様、タイの精神的支柱でもある。また、王族言葉があるようであるが、全く分からない。

Bahasa Malayu/Indonesia:
二人称について、丁寧・尊敬表現がある。
 kam/ Anda, Saudara, Tuan(貴方:友達や子供に対しては言われず、丁寧な言い方である)

 (I)Minta kopi./(M)Tolong beri saya kopi.(コーヒーをお願いします)

 マレー語とインドネシア語は、すでに述べたように90%は同じであるが、方言的な違いがあり、それぞれの用語レベルでたまに通じないこともある。その一例を次に示す。

日本語/ EnglishBahasa MalaysiaBahasa Indonesia
何時/ whenbilakapan
時間/ hourpukuljam, pukul
昨日/ yesterdaysemalamkemarin
出来る/ canbolehbisa
話す/ speakbercakapbicara
部屋/ roombilikkamar
店/ storekedaitoko
おいしい/ delicioussedahenak, sedah



 最初に、インドネシア語の本を購入した関係で、マレーシアで、学んだインドネシア語を言うと偶に通じないこと、通じても外国語レベルで通じていることがある。それは、インドネシア語だとよく言われる。一般に、日本では、マレーシア語の本が少ないように思う。何故だろうか。

 インドネシア系中国人から聞いたことであるが、同じ言語系であるマレー語とインドネシア語について、マレーシア語は、インドネシア語と比べて、少し粗雑である。この点、マレーシア系中国人にも聞いてみたが、その点は多少あると認めていたことからすると、そうなのであろう。

3.アジアは、動詞の時制(verve tenses)変化がない

 アルタイ語系に属す日本語、韓国語は、英語と同様現在、未来、過去の時制変化を持つが、中国語、タイ語、マレーシア語,インドネシア語には、時制変化がない。中国語は、厳密にはあるのかもしれないが、時間を意味する言葉があれば、なくてもよいし、状況からなくても通じる。

現在未来過去
日本語食べる(明日)食べます(昨日)食べました
Englisheat(s)will eat (tomorrow)ate (yesterday)
漢語(明天)吃(昨天)吃(過,了)
Hangulomogoyo(neil) mogosseyo(oje) mogkessyo
Phasaa Thaithaan(phruungnii) thaan(muawannii) thaan
Bahasa M/Imakan(besok) makan/ akan makan(kemarin) makan/ sudah makan



新幹線-700系 中国語の場合、いわゆる普通語(Mandarin)に依っているが、現実には、中国には、多くの言葉が存在する。上海語、福建語,潮州語、広東語、四川語、客家語等と多くの言葉がある。一般に、それらは方言といわれているが,ヨーロッパには、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語等があるのと同じ程度の違いがある。すべての種類の中国語は、漢字で記述されるため,それぞれの言葉は,通じると思われるが、ヨーロッパと同様,その言葉を知らなければ、通じない。普通語のみしか知らない者にとって、上海語は外国語であり、広東語のみしか知らない香港人にとって、普通語は外国語である。香港で、普通語で、本屋を訊ねたことがあるが、彼は恥ずかしそうに,”自分は、申し訳ないが、普通語が分からない”との返事が還ってきたことがある。

 福建語と潮州語は、近いようである。従って、潮州出身者の多いタイ華僑は、福建語を話す台湾、シンガポール、マレーシア人とは会話が出来る。潮州は、地理的には、広東省にに属している。

 因みに、シンガポール、マレーシアのペナンには福建語、マレーシアのクアラルンプールは広東語を話す人が多い。
 前に示したように、食べるの普通語が”吃/喫 chi”であるが、広東語では”食(sik)”、又,飲むは普通語で”喝 he”であり、広東語では”飲(yam)”であり、漢字としては、広東語が日本語に近い。

 偉大な中国の改革解放の総設計師「登小平 Deng Xiao Ping」(Dengは、おおざと偏”卩”付き”登”であるが、日本の第一、第二水準の字体にはないので,”登”の当て字で便宜的に書いた)が、1997年2月に、香港の返還を待たずに逝去した。登小平は、客家として有名である。客家には、多くの政治家、実業家がいる。三民主義の孫文、台湾の李登輝,シンガポールのリー・クアンユー,宋慶齢・美麗ら宗家の三姉妹、劉承志,朱徳らの政治家や軍人、また、タイガーバーム王胡文虎ら実業家、儒教の朱熹,日本との縁も深かった文豪・歴史学者郭沫若等がよく知られた客家である。客家は、中国の発展、東南アジアの発展,いわゆる華人経済圏の発展とともに、最近特に注目され、21世紀の鍵は、客家が握っているとも言われている。
 客家は、別にして、確かに東南アジアでは、経済を華僑が握っている,本当に華人経済圏であることを実感する。
4.アジアの数え方は、中国からか?

 各国語の数え方を表に示めす。これを見ると、数え方は中国語に基づいていることが分かる。福建語については、よく分からないが、これに福建語を入れたら、もっと明らかだろう。
 マレーシアで聞いた福建語(Hokken)の数え方である、(*で示したもの)0を聞くのを忘れたが、明らかにアジアの数え方は、中国語に基づいていることが、よく分かる。次は、上海語を入れてみたい。(1997.8/24)
 台湾人に聞いた福建語を示すが、マレーでの福建語と違うところがあるが。(1997.10/24)
 客家人は、台湾にも多く、今でも客家人は客家語を話し、ビジネスの場合も、客家語によっており、一般の台湾人も、客家との取引は出来るだけ、客家語を用いる。なお、台湾では、普通語が公式語とされるが、現実の一般会話は福建語(台湾語)によっている。これは、上海、香港、広州などと同様である。台湾で聞いた客家語を示す。(1997.12/6)
 台湾語は,福建語であると思っていたが、厳密にはどうも違うように思う。台湾語でごく一般的に使われる、paisei(有難う,すみませんと言ったようなニュアンス)が福州人には通じなかった。台湾語は,福建省にある廈門/Xiamen/アモイ語という方言のようだ。(2001.1/11)
 上海語は、まだ上海人同士で使われている。2は、写真をとるときの1,2,3など、liang と言う、nie も2の意味で使われるが、主はliang のようだ。3は、sae がちかいか。10は se/sa 、いわゆる英語の [e] の反対の発音記号で書くのがよい。(2001.11/6)

.0123456789 10
日本語reiichinisansigorokushichihachikyuju
漢 語lingyiersansiwuliuqibaqiushi
広東語reinyatisamseinrotcatpatkousap
福建語linji/ *chitni/ *nohsan/ *sahsi/ *siigoh/ *gohlak/ *lakchi/ *chitbe/ *pekkao/ *kaozap/ *chap
上海語lingyetlian/niesesingrotcetbatqiusa/ser
客家語liniryongsamsiiungryochitpatkyusib
Hanguloyonilisamsaoyukchilpalqusib
Phasaa Thaisuungnungsoongsaamsiihaahokcetpeetkaosip
Bahasa M/Inolsatuduatigaempatlimaenamtujuhdelapansembilansepluh

中国・桂林・陽朔  ただ韓国語についていえることは、この漢語の数え方以外に、日本語の”ひとつ、ふたつ,みっつ”に相当する、独自の呼び方がある。以下のそれを1から10まで示す。

 hana - tul - set - net - tasot - yosot - ilgop - yodol - ahop- yol

この韓国独自の数え方は、今でも時間を言うときに使われている。ところが、分を言う時には、また漢語に戻るのは、興味深い。
 5:15 の場合、taso si ship o pun という。

 時を言う場合、タイ語はまた西洋流になれている人にとって、興味深い。時間を示す言葉は、”時(o'clock)”と一律ではなく、一日は、それぞれ決められた時間帯の名前があり、その名前によって呼ばれる。以下にそれを示す。

時 間
タイ語の時間
1 - 5 AM
tii
6 - 正午
moong chao
1 - 4 PM
bai
5 - 6 PM
yen
7 - 真夜中
thun


0 AMthiiang khun12 PMthiiang wan
1 AMtii nuung 1 PMbai moong
2 AMtii soong 2 PMbai soong moong
3 AMtii saam 3 PMbai saam moong
4 AMtii sii 4 PMbai sii moong
5 AMtii haa 5 PMhaa moong yen
6 AMhok moong chao 6 PMhok moong yen
7 AMjet moong chao/moong chao 7 PMthun nuung
8 AMsoong moong chao 8 PMsoong thun
9 AMsaam moong chao 9 PMsaam thun
10 AMsii moong chao10 PMsii thun
11 AMhaa moong chao11 PMhaa thun

 このような言い方は、もしかしたら昔の中国あるいは別な所になかったかと,思ったりするが、どうでしょうか。

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